リチャード・ボナ(Richard Bona)の新作「The ten shades of blues (ザ・テン・シェイヅ・オブ・ブルース)」


BonaのLiveを除くと4年目の待望の新作、10/14に出て以来、毎日聞いているが、素晴らしい作品だ。この新作は今年10月に出るのは早目にわかったが、中身がなかなかわからず。最近になってインドのシタールなどを使ったインド現地の曲や、バンジョーを使ったカントリー&ウェスタン(C&W)があるということで、不安もよぎったのも確か。実際、この手の音楽ではがっかりすることが多かった。
今回は、ブルースの影響を受けた世界中の音楽をやるとはBonaの弁。選んだ国は、アメリカ、アフリカ、そして、インド。今までのキューバ、ブラジルへの接近はお休み。しかし、いわゆるブルースっぽい、ステレオタイプの音楽がないのはボナらしい。まあshadeだし、形だけではなく、中身、こころでの影響も含んでいるのでは。レコーディングに選んだミュージシャンは、今までレコーディングに招かれたり、ツアーで知り合ったりで、気に入った人を起用。
(1)は、Bonaのアカペラで始まる。一瞬、ブライアン・ウィルソンBrian Wilson)のSmileのオープニングのOur prayerを思い浮かべるが、それとは違い、明るいオープニング。ボーカルグループのTake 6の方向性を狙ったとのこと。
(2)は、インドでのレコーディングだが、起用したボーカリストは、インドというよりパキスタンのカッワーリ(宗教音楽)の歌い方で、いきなりびっくり。シバ神に対する瞑想への招待の歌とのこと。シタール、タブラなどが使用されているが、疾走感が何ともいえず、かっこいい曲。ただ圧迫感はなく、軽さもあるのは、さすがボナ。イントロは、ニューデリーの町の音を録音したもの。
(3)は、ダニー・ハサウェイのような曲風を狙ったそうで、以前にボナにベースを頼んだ米国ボーカリストが英語でリードをとるが、あまりに凡庸な曲と思う。
(4)で、いつもの優しいボナ節が戻ってくる。タイトルは「母の涙」という意味で、すべての母への賞賛の歌とのこと。(5)は、このアルバムのハイライト曲と思う。アフリカのユッスー・ンドゥール(Youssou N'Dour)がやるようなンバラ・ファンクで盛り上がる。この曲で要となるシンセとパーカッションはなんとボナが演奏。途中の転調などの音構成も飽きさせず、お見事。タイトルは、アフリカでの魔術師の名前とのこと。(6)もボナ節。ボナ節のときは、ほとんどすべての楽器を自分でやっている。曲は、マナーのない少年の物語とのこと。(7)が、うわさのC&W。でも何回か聞いていると、このアルバムではもっともブルースっぽい曲調で、あまり気にはならなくなってきた。タイトルのアフリカン・カウボーイとは、ボナのこと。(8)は、フルートの出だしでモリ・カンテのアルバム「サブ」かと少し驚くが、ボナ節。フルート以外は全て自演。ただフルートは、やりすぎの尺八と同じように、吹きすぎ寸前。タイトルは学校という意味で、多くのことを知ることを薦める内容らしい。(9)はハモンドオルガンをフューチャしたゴスペル風で、ボナが英語で歌う。Yalaはボナの奥さんの名前。(10)はボナの義兄弟のための歌とのこと。出だしや途中で、カッワーリがサンプリングで使われていて、不思議な雰囲気を醸し出すが、この辺のハイブリッドさはボナしかできないように思う。演奏もボナが全てやっている。サリフ・ケイタが歌いそうな曲でいい感じ。(11)は穏やかなダンサブルな音楽で締めくくる。
 ポップ、メロディアスで明るい音楽、必要十分な演奏、エレクトロニクス処理の巧みさ、ギター、シンセサイザのフレーズの斬新さと、優しいボナの歌。今まで、自分のやりたい音楽を作りたいが、急にやっても受け入れられないので、徐々にやっていくとかなり前に言っていたボナ。デビューして10年で、キューバ、ブラジルなどの音楽も消化しての今CDで、ほぼその目標に近づいたのではないだろうか。

ザ・テン・シェイヅ・オブ・ブルース

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