宇多田ヒカルのライブとボブ・ディランのThe Witmark Demos

宇多田ヒカル横浜アリーナの12/8(水)のライブ「Wild life」を見た。といってもWEBのUstreamで。当日の前半は、所々で映像が完全にフリーズしたが、ミラーサイトに変更してからは、安定して見られた。4万人が見ている時もあったが、それでもサーバーのダウンがなかったのはお見事。
ぼくはくま」は、やはり特別だった。オープニングのCGアニメでは、くまになりすましたヒカルが登場。ステージに登場して歌うヒカルは、大変かわいらしい。円形ステージは、2003年のピーター・ゲイブリエルPeter Gabriel)のGrowing up tourを思わせるが、非常にシンプルなデザイン。ストリングスが8人、キーボード(マニピュレータを含む)4人と贅沢な演奏陣だが、全員の服が白黒の上下で、これもシンプルに統一されている。すべての音が生き生きとした、今の最良の音楽の一つが楽しめる素晴らしいライブだったと思う。

終わった後、改めて2008年に出たHeart Stationを毎日ipodでじっくり聞きなおしたが、すべての曲が良く、ほぼ文句の付けようがないアルバムと再認識した次第。基本のプログラミングもヒカルが行っているのにも驚嘆。最初のFight the bluesから元気付けられるし、Beautiful worldもテンポが良い。Kiss&cryはリズム、展開を含めてハイライト曲の一つと思うし、「♪〜もっと近づいて」の所など、大変かっこいい。テイク5は、やや壮大な感じが80年代のピンク(Pink)という日本のロックグループの曲を思い出させる。そして、突然の終了の後に、「ぼくはクマ」。続いて、リラックスした虹色バスで締める。
 ライブでも、「なんか疲れたなー」といって観客をがっかりさせたと思ったら、「ぼくはくま」、そして、Automaticになる、この辺がハイライトの一つなのでは。Automaticは、エレピのアレンジが軽くジャズっぽくなっているが、デビュー時から成長して、余裕のステージ。Passionでの女性ギタリストの抑えたギターの演奏も良かった。Blueはなぜこんな魅力的なメロディを思いつくのだろうと思ってしまう(この曲だけでないが)。続くShow Me Loveのイントロのシンセ音は一級品。またジョン・レノンの命日にちなんだ「アクロス・ザ・ユニバース」の唄もにくい。
 宇多田ヒカルはこれで無期限活動休止に入るとのことで、これだけの魅力的なメロディの良質な音楽を連発したのだから、さもありなんと思ってしまう。11月に買ったボブ・ディラン(Bob Dylan)のThe Witmark Demos1962-1964(ザ・ウィットマーク・デモ)。ディランのBootlegシリーズは、初期のディランの若々しい声が初めて聞けるなどで、驚きとうれしさがある企画のシリーズ。このウィットマーク・デモは、デビュー前のレコード会社へのデモ用のもので、初々しいし、世に出た曲とほぼ変わらないことと、わずか22歳のころの唄が今も人を惹きつけることに驚く。でも、これらの初期のディランの声は、誰もリアルタイムでは聞けなかったが、ヒカルの歌は、デビューからリアルタイムで成長していく姿も聞けるのはうれしい。また、ディランは「ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム」、「追憶のハイウェイ61」、「ブロンド・オン・ブロンド」と重要作を立て続けに出して、精神的プレッシャも並外れたものがあったと思うが、1966年のオートバイ事故により、ウッドストックという田舎町でリハビリに励むことになる。でも、このときに作った音のストックは、後の「地下室」で世に出たし、ザ・バンドのデビューにもなったし、その後のディランの基礎になるなど大きいものだった。ヒカルもこのような休息が必要だったんだと、こじつけがましいが、そう思う。

ザ・ブートレッグ・シリーズ第9集:ザ・ウィットマーク・デモ

ザ・ブートレッグ・シリーズ第9集:ザ・ウィットマーク・デモ