ダラー・ブランド改めアブドゥーラ・イブラヒムのアフリカン・ピアノの再演

6月のNHK　BSは、Ｗ杯の関係で南アフリカに関する見ごたえのある番組が多かった。W杯日本代表の本田圭佑の6/26の番組「スポーツ大陸」は、再放送ながら、単身で海外に行き結果を出した強い意志とチームでの指導力に感心させられた。またW杯日本の4試合は全てTVの生放送(民放を含む)で見て堪能した。ありがとう、侍Blue。今回紹介する6月26日(土)午後8：00〜9：30「南アフリカ　絶景を弾く　アブドゥーラ・イブラヒム」という番組も素晴らしかった。アブドゥーラ・イブラヒム(Abdullah Ibrahim)は南アフリカ出身のジャズピアニスト。昔は、ダラー・ブランド(Dollar Brand)と言う名前で、その名義で私が持っているCD「アフリカン・ピアノ」は、ピアノソロの組曲のような構成の1969年のLiveで、名盤の誉れが高い。久しぶりに聞き直したら、バラード、フリージャズ、ブギウギタッチありなど緩急に富んだ曲構成で、何より明るく、素晴らしい。この番組で、ダラー・ブランドという名前は、若い頃に、ケープタウンに寄港する米兵から当時の新しい音楽が聞けるレコードを買うためにドル札を持って回っていたことでついたあだ名という件にびっくり。ご多分に漏れず、私もアパルトヘイトという言葉は、1980年代前半にピーター・ゲイブリエル（大ファン）のBikoという曲で、ネルソン・マンデーラも、同じ頃のユッスー・ンドゥールの同名曲で知った口である。イブラヒムは14歳から音楽活動を始めたが、反アパルトヘイト運動にも加わったことで移送の危機を脱し亡命、アパルトヘイトが終わり戻ってきたのは15年ぶり。
「マネンバーグ」というイブラヒムの作った曲は、南アフリカの第２の国歌と言われるぐらい有名とのこと。元々、イブラヒムも暮らしていた居住区「district6」に住んでいた黒人を強制移動させた所がマネンバーグで、反アパルトヘイト運動のテーマ曲にもなったという。このメロディーは確かに一回聞いただけで覚えられる親しみやすいメロディで、この親しみやすさはイブラヒムの真骨頂と思う。番組では、生まれ育った町であるケンジントンの教会を再訪するが、教会でアメリカの賛美歌をアフリカのビートで歌うことで、音楽が人に与える力を知ったという。「マネンバーグ」もなんとなくゴスペルっぽい。また、先住民族のブッシュマンにも敬意を払っている。
　イブラヒムは現在75歳。75歳はやっと物事が理解できる年齢とのことで、今が出発点でやりたいことが山ほどあるという。現代は時計が進みすぎた時代で、針を戻す必要があり、大地に根ざした人間本来の姿を取り戻すための土地を探していたが、ようやく安らぎの土地を見つけた。ケープタウン北部のカラハリ砂漠入り口の土地800ｈａを２年前に購入、今後の活動の拠点にするという。まだまだ元気なイブラヒム、これから何をするのか大いに期待。
　今回は、75歳になったイブラヒムが、本当にアフリカ大地や浜辺などにピアノを置いてソロを弾く「アフリカン・ピアノ」の再現という趣。バラードタッチの曲が多いが、演奏は以下の９曲で、この番組を記録したDVD-Rは家宝にします。
1)Sunrise
　朝日が昇る大地でのピアノソロ。風の音などもバックグランドとなり、穏やか。
2)Saud(巡礼)
　過ぎ去った時を静かに振り返るための曲で、アパルトヘイトでのトラウマを音楽の力で浄化したいという。個人的にもっとも気に入った曲。
3)Mountain
　何より大好きなケープタウンが見下ろせるテーブルマウンテンという山への思いの曲。
4)Nimvula
　フルートソロ。雨の歌で、水の神を礼賛する曲。
5)Bra joe from kilimanjaro
　アフリカ最高峰のキリマンジャロに捧げる曲。「アフリカン・ピアノ」のオープニング曲。左手の反復メロディはアフリカの大きな時間の流れを表すとは、よく言われる弁。
6)Joan-Capetown Flower
　亡命先の米、ヨーロッパで夢にも見た故郷のケープタウンを女性にたとえ、その美しさを称える曲という。波の音、鳥の鳴き声、風などが効果音にもなり、素晴らしい。
7)Star dance
　空気の澄んだカラハリでは星が手でつかめるという。
8)Ancient africa
　古き美しきアフリカへの賛歌。
9)Tintiyana
　太陽を目指して飛んでいく小さな鳥の意味。アフリカの子供に捧げる曲で、「アフリカン・ピアノ」のラストの曲。